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広島高等裁判所松江支部 昭和26年(ネ)3号 判決 1951年8月01日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決摘示事実と同一であるから、ここにこれを引用する。

(立証省略)

理由

被控訴人が補助参加人から昭和二十年中その所有にかかる鳥取市東品治町六十九番地の一田一反八畝歩を小作料は米五俵二斗を換算した金額として期間の定なく賃借したところ、補助参加人が昭和二十三年中被控訴人に対し右賃貸借の解約申入をなしたこと、補助参加人が控訴人に対し同年七月右賃貸借解約の許可申請をなし、控訴人が昭和二十四年五月二十五日附鳥取県受農地第三〇三一号を以て、右農地の賃貸借解約の許可の処分をなし、その処分はその頃補助参加人に通告されたことはいづれも当事者間に争いがない。

よつて、右許可処分の効力について判断する。

被控訴人は本件賃貸借の解約は農地調整法第九条所定の要件を欠き、従つて、本件解約許可処分は不法であると主張し、控訴人はこれを争い先づ、被控訴人は昭和二十二年の同年産米収穫後及び昭和二十三年にわたり、本件田地を田中芳蔵、住口熊次、田辺某の三名に対し農地調整法第四条所定の承認もなく、又補助参加人の承諾もなく転貸耕作せしめたからこれは法定の解約事由である信義背反行為に該当すると主張するから、この点について検討する。原審証人有本健太郎、森下豊蔵、田中くに、沢口ふきの各証言(但し沢口ふきの証言は一部)原審における被控訴本人の供述を綜合すれば、被控訴人は昭和二十一年頃から昭和二十三年頃までの間に非農家である田中くに、住口熊次、田辺はな等から食糧難の故を以て一部の裏作をさせてもらいたいと懇望されたので、これに同情し、無償で本件田地のうち半分に充たぬ部分を右の者等に裏作(蚕豆の栽培)させ、その余の部分の裏作は被控訴人自身が行つていた事実を認めることができ、前顕証人沢口ふき、原審証人河上勅薫の証言中右の認定に反する部分は当裁判所の採用しないところで、他に右認定を左右するに足る証拠はないからこの事実によれば、被控訴人は本件田地の一部を裏作期間だけ右田中くに等に転貸(使用貸借)したものと認めるを相当とする。もつとも、前顕各証拠によれば、右田中くに等は被控訴人方の収穫期には、御礼の意味で、被控訴人のため稲刈取の手伝をしたことを窮うことができるけれども、この手伝をしたことを以て直ちに転貸の対価であると認めるわけにはいかないから、右転貸借が使用貸借であると解することの妨げとはならない。ところでこの程度の転貸は、以上認定のようなそれがなされた当時の事情を考慮すれば、たとい賃貸人である補助参加人の承諾や農地委員会の承認を得ないでなされたとしても、本件田地の賃貸借関係を破棄しなければならない程の信義背反行為には該当しないと解するを相当とする。されば、控訴人の前示主張はこれを採用できない。次に、被控訴人は昭和二十年から昭和二十一年までの小作料は支払つたが、いづれも延滞したもので、しかも、昭和二十三年分の小作料は未払であり、これは信義背反の行為であると主張するから、この点について考えてみる。前顕証人沢口ふきの証言、原審における被控訴本人の供述を綜合すれば、昭和二十年から昭和二十二年までの小作料はいづれも納期を延滞し(本件小作料の納期については、特別の合意のあつたことの立証がないから、民法第六百十四条に従い、遅くとも毎年末にその支払をなすべきものである)それぞれその翌年中に支払つたことを認めることができる。しかし、原審における被控訴本人の供述によれば、昭和二十年分の小作料の延滞は被控訴人が同年中は応召したため稲作の出来が悪かつたことによるものであること、昭和二十一年又び昭和二十二年の各小作料については金納制の実施にもかかわらず、補助参加人においては物納を強く希望しており、被控訴人としては農地委員その他から物納をしないよう警告を受けていたような事情もあつた位で、補助参加人としても金納にはあまり関心を抱いていなかつたため自然納期が厳守せられなかつたことが、前記小作料の延滞の原因であつたことをそれぞれ窮うことができるから、昭和二十年から昭和二十二年までの小作料延滞納期経過後の支払を目して宥恕すべき事情のない小作料の滞納と認め難いのは勿論、その他の信義背反の行為とも解し難い。又昭和二十三年分の小作料が未払であることは被控訴人の認めるところであるけれども、原審証人前田礼子の証言、原審における被控訴本人の供述を綜合すれば、昭和二十三年分の小作料の納期が厳守せられなかつたのも、前段認定のような事情によるものであるところ、被控訴人は昭和二十四年春に昭和二十三年分の小作料をその娘礼子をして補助参加人宅に持参せしめたが、故なく受領を拒絶されたため、支払ができなかつた事実を認めることができるから、昭和二十三年分小作料の未払を目して宥恕すべき事情のない小作料の滞納と解することもできない。されば、小作料の延滞又は不払を理由として解約を正当なりとする控訴人の前示主張もまたその理由がない。次に、控訴人は本件は賃貸人である補助参加人の自作を相当とする場合に該当すると主張するけれども、農地賃貸借解約許可処分が適法かどうかは処分当時の事情に基いて判断すべきものであるところ、本件の場合が未だ補助参加人の自作を相当とする場合その他解約を正当とする場合に該当しないことは原判決の説明するとおりであるから、ここにこの点に関する原判決理由を引用する。

以上説明のとおり、本件解約許可處分は解約を許可すべき事由なくしてなされたもので、失当であるから、その取消を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。従つて、右と同趣旨に出でた原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。(昭和二六年八月一日広島高等裁判所松江支部)

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